仁科蔵王 裏話

 裏話を書くのは志の妨げか、人々に希望を与えることになるのか、失望させるのかわからないけれど。理化学研究所でこうした実験をしているというお話を最初に教えてくれたのは、植松カットフラワーの星野さんという方だった。星野さんもたくさんの育種をされておりさまざまの名花を作り出しておられた。
 彼は、メルトモで、いろいろいいアドバイスをくれたが放射線育種場の依頼照射なども教えてくれた。
 2000年から放射線育種を継続しているが、面白いものができてはいるが形質が安定せず品種登録にいたらないまま7年を経過したが、最近、形質を固定する方法を見つけたので近々それらで得られた形質を持つ新しい品種を実用化させることができると思う。近々といっても5−6年先になるだろうけれど。
 彼に会ったのは2003年のことだったがその固定しない問題について深く話し合った。そこで出てきたのが重イオンビームだった。すごいなと思い早速紹介いただいた吉田先生に連絡を取ったところ、阿部先生をご紹介いただき早速照射という運びになった。2003年に照射したのは「山形おばこ」まだ発表したばかりの品種であった。翌年欲が出てギョイコウに照射を行ったものが今回の「仁科蔵王」となった。
 
 1987年隣の庭先に越境した枝を伐採したとき、その枝に黄色い花がついているのを見つけた。品種は御衣黄、花弁は薄くその短花枝を枝を取って芽接ぎを3箇所に行ったが結局失ってしまった。御衣黄は黄色になるという信念が生まれた。以後さまざまの実験から自然突然変異の生存率は1/15以下ということがわかってきた。品種にもよるが今まで50ちかく自然突然変異を見つけてもひとつたりとも生かせていないものもある。
 桜のほかにもさまざまいじっていたが、上記の縁でガンマ線が使えることがわかりガンマ線を御衣黄に当てたところ関心のもてるものが生まれている仁科蔵王が初開花した数年前、ガンマ線でも黄色みたいな桜が生まれていた。これは完全に単弁になり少し茶黄ばんでいたがもちろん商品価値は見て取れた。しかし翌年別の花が咲き、一部は元に戻ったり、同じ枝でも微妙に変化しており安定・固定はまだ時間がかかると思われる。やればさらに他の障害があることもわかるだろう。
 自然突然変異で見た黄色い桜は花弁が薄く、3日しか咲いていなかったが仁科蔵王は10日を越えて咲いており2007年は気候のせいで20日程度木についていた。花持ちはよいままであった。結果としてこの品種を次の改良母体としたいと阿部先生に打診し、同じ処理をすれば再現するであろうから先に品種登録で抑えることを提案申し上げた。仁科蔵王は開花当日のみ黄色を出すが、後は順次変化していく。自然突然変異で見た黄色い桜は色は変化しなかった。まだ改良の余地は多い。だがどうだろうか・・・花としてみたとき・・・最初に咲く色から順次毎日変化していく、花の色も玉虫色でいろいろ議論できる。強くくっきりした色で君臨するよりも、日本人には議論の余地があり多くの人のわがままを聞いてくれる桜のほうが愛されるようなきがする。完全な黄色なら別の黄色い花に負けてしまうかもしれない。桜には桜の出す黄色があるのだろう。
 結論から言えば御衣黄は黄色になりたがっていた。枝変わりを起こしたものをとり損ねたのは私の技術が未熟だったためで、御衣黄には申し訳のないことをしてしまった。そんなおもいがまだあの時見た完璧な黄色へむけて次のステップにかりたててくれる。そして黄色になることは色だけでなく別の目的があって変化したことがそのときにわかったのだがこれはノーコメントだ。
 2006年福岡県の鹿毛哲郎師が九州からわざわざうちを訪ねられ、いろいろいいお話をされていった。「植物をもっと信じなさい、そうすれば植物も人間に答えてくれる。」この岡本太郎氏にも似た教えの真意がここにあるのだが、私の場合一度奇跡か偶然に見つけているわけで、盲信して進んでいたのではない。師ははっきりした姿ではなく植物の観察の中に片鱗を見つけてそこを追い求めていかれるようだった。他にもすばらしいお話はたくさん伺えたが、私が用済みになるころに打ち明けることにしよう。

 2003年 重イオンビームをはじめて当てて寒いときに200以上の穂木を接いだが生きたのは3本だった。現在そのときの生存者は2品種だけ。その失望的状況で挫折しないように阿部先生から叱咤激励のメールがいくつか来たのが印象的だった。最初ガンマ線をやったときは80Gyで620個体中8固体(選抜をかけたので現在2)しか残らなかったのでまあこんなものとして、あきらめず来年もやりますのでと返事したと思う。でもここで叱咤激励がないとおっくうになりなかなか進めなかったろうとおもう。ガンマ線が依頼照射なのでのんびりペースでやっている・・・・わけでもないが・・・・共同研究でもないので、成果を出す必要がないから、隠し持つにとどまるものもあるのは事実だ。だだガンマ線は安価に大量サンプルが取れるので確率的にはいい。
 重イオンビームは理屈どおりエキサイティングなものがたくさんできてくる。だがそれは人の勝手な遺伝子操作によるものではなくいつかその植物が偶然に運命的に作り出す変化だということだろう。が、やっていいなら私個人としては遺伝子組み換えも関心はあるしどんどんやりたい。自然界には遺伝子を壊したりなんか変化させるウイルスのような病菌も存在しており、それを使っての育種も進めているがなかなか思うようにはならない。以下がその罹病個体であるが場所により発現現象が違うが、濃色方向の変異は起こさない。これは樹液によって伝染するので隔離している。 

 ヒトのDNAにもヘルペスが混在しているように、植物にもいくつか侵入して姿を潜めているウイルスたちがいるようであるがそれと気がつくのは観察と時間が必要になってくる。


(つづく)

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