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田舎の怪談
1 せりあがる布団
2 法罰稲荷神社
3 あがっしゃいばあさん
4 焼けた顔
5 人食い虫
6 裸足で走る少女
7 だきつきおばけ
8 火遊びの代償








8 火遊びの代償
 某さんは名門進学校から大学に行き役人になったむすこをもって地区の羨望の的であった。だがある日、ぽっくり交通事故でなくなってしまった。某さんは県会議員の選挙運動員もしたり地元の名士だったが早すぎる死に地域は戸惑った。
 そして十数年たってから、わかった話でみな恐れおののく。
 優秀な息子は勤務先で美しい女性と知り合いになり、妊娠もさせてしまっていよいよ結婚してよとなったとき、さらに美しくて出世の道もある上司の娘を紹介され結婚したくなくなっていた。先に付き合っていた女性は、別れ話と慰謝料交渉に失望し、結局おなかの子とともに自殺した。遺書は「某の息子もあの世に連れて行く」というものだったという。某さんは、別れ話よりさらにひどくなったその事件を内々に和解して、和解が終わっり幾日もたたずあの世に連れて行かれたのだという。その犠牲のおかげで、某の息子は役人として上り詰めた。


7 だきつきおばけ(K)
 某君、夏の暑い寝苦しい夜に窓を開けて寝ていると、窓からふうわりと白い衣の幽体が入ってきて抱きついた。必死でその姿を見て気づいていたが、体は動かず、逃げることもできなかった。その時刻そのとき月は真南からやや西に傾いていた。
 朝になりやっと動けるようになると、しらけた月が西に沈もうとしていた。そのときはそれだけだった。
 3日後、某君の一人暮らしのおじさんが自宅で食事中に脳溢血か何かで倒れ死後10日以上の腐敗した状態で見つかった。


6 裸足で走る少女(S)
 その少女は6人兄弟で2番目で弟の面倒をよく見るいい子だった。上の兄・長男がパラチオンを田植えの終わった田にドロイムシ対策としてその少女に撒かせた。そのとき少女は裸足であったため足から毒が入り死んでしまった。近所の人々が集まってその葬式のとき、命じた長男は、葬式して「儲かった」と悔やみが集まったのを、酒を飲みながら喜んだ。
 だが、少女はそれから毎年田んぼに稲が育つ期間、裸足でその家の周りを走り回るようになった。そのため、弟たちは家を巣立って、盆正月も家に戻らなくなり、長男は悠々夫婦で暮らしていた。
 その裸足の少女は夜走り回っていたが、自分が死んで13年目に同じ地区内のある少年の周りを走り回り、その少年の部屋に潜んだ。少年が大人になったとき、事件が重なり、少年はその長男であるじいさんを告発し長男も家を追い出されて誰もいなくなった。少女の死後50年以上後の話だ。


5 人食い虫(S)
 1970年代、近くの山で首吊りや車中ガス心中が多発していたときのことだが、消防団が依頼され大工の自殺者の捜索をしていたとき、夏の暑い日だったので行方不明から5日目であったが、やがて木にぶら下がった虫だらけで異臭を放っている遺体が見つかった。それを下に麻袋を広げ、縄を切ってすぽっと入れて交代で引きずって降りて来た。途中くさいくさいとはなをつまみながら、みな捜索から開放されて笑い話をしながら降りてきた。途中袋からこぼれるピンクの虫を踏み潰しながら。
 その翌年、その大工に家を建てさせ途中で設計と違うと、別大工に仕事を移した、東原の爺さんが家から虫だらけの遺体で孤独死しているのが見つかった。次の年は一緒に仕事をしていた同じ大工が酔って川に落ち、2日後下流の葦の間で虫だらけで見つかった。
 ほかにも時々、虫だらけの遺体が見つかることが多いがつながりはこれだけではなさそうだ。


4 焼けた顔(M)
 学校の横を流れる川の橋の下に不良がたむろしてタバコをすったりしていたのだが、さすがに夜は誰も集まらない。ちょうど橋のところにタバコ屋もあって買いやすくはあったのだが、そこに夜行ってタバコをすっていると煙の向こうに顔も全身やけただれた女が立ってこっちを見ているという噂があるからだ。
 その女は近くの家の結婚の年頃を逃がした女の人で、大戦後の復興で家族ぐるみで働きやっと豊かになったときには30後半になっていた。その家の兄は嫁に行きそびれた妹をいじめ始め、やがて妹は川べりに降りて息焼身自殺を図った。兄はその自殺は嫁にいけない女性を地域がいじめるとして世間体を繕い逃げ切った。しかし、夜中の2時から3時までその家の前を通ると焼けただれた女が立っているという話があったが、よくある話で作り話と思っていた。しかし、いまだに兄が健在であり、その焼けただれた女は兄のいるところについて歩いているとかんの強いばあさんは言う。


3 あがっしゃいばあさん(S)
 その家は、娘も嫁に行き、息子は役人になって同市内にいたが、爺さん婆さんだけの2人暮らしをしていた。じいさんは、酒が好きであったが、飲むと人に文句を言いくってかかる悪い酒飲みだった。じいさんは金はすべて酒にしてしまうので婆さんは、家の裏のたけのこ、畑の豆、山の山菜、田んぼの土手の蕗、などが主な食べ物だった。
 しかし、ある雨の少ない年、じいさんの唯一の収入の蚕が大量に死に、夏も畑が干上がり豆も枯れて実らない年、じいさんは婆さんを踏んだようで婆さんは立って歩けなくなった。それでも婆さんは秋まで畑で何がしかの野菜を食べて生きていたが、ついにその年の12月20日あたりに亡くなった。しかし、じいさんが救急車を呼んだのは12月23日で、救急車は警察署に行き検死となった。
 その婆さんは気がいい婆さんで、葬式のご馳走や、地区の集まりのとき、人においしいものを「あがっしゃい」と薦めるのが癖の婆さんだった。それが近所の人たちの夢に現れ始め、肉をあがっしゃいというがどうもその肉はじいさんの肉らしい。そして誰にもあがっしゃいといいながら、肉は分けてくれない。
 じいさんは家を逃げ出して養護施設に入り、婆さんはまだ埋葬されず、まだじいさんの肉を持って徘徊している。


2 法罰稲荷神社(S)
 昔から、地区の稲荷大社は小さい小屋の大きさだが、みなあがめてお祭りも4/28には毎年、平日でも休みを取って祝っていた。しかし、バブルのころからみな忙しくなり5/5にお祭りの日を移し仕事に都合よく変えていったが、それとともに稲荷神社のお祭りは廃れていった。
 事の発端は神社の屋根が腐って補修に、村社なので自治会予算から出して直そうという案に対して、日本国憲法によって宗教と政治は関連してならないと持ち出した者の意見で怪しくなった。神社の屋根の補修は一年延びた。翌年稲荷神社の補修は事なきを得て地区予算で補修することとなったが、宗教と政治の意見を持ち出したものは数年後変死してしまった。


1 せりあがる布団(S)
 厳冬の冬、まだ石油でもって温室暖房などのなかったとき、まきで持って温室の花を咲かせ業としていた、久作が温室で薪をくべて暖房していたある夜、ものすごい吹雪で家にも板の隙間から雪の入る日、母の布団を引っ張られるのが見え、驚いて起き上がり、爺さんをよんだ。爺さんはあわてて温室に見に行き、火をくべないまま寝入っている久作を起こして凍死を免れさせた。